各全総の地域別人口の目標値に、どの程度の誤差があるかをチェックします。
五全総を除く各全総においては、
目標年次の社会状況の把握や目標の設定のために「年齢構成比」「国民総生産」など具体的な数値を用いて様々な指標値が設定されています。
この指標値により全総本文で提示している内容に客観性を生み出し、説得力のある内容となっていると考えられます。
では、その数値はどの程度の誤差があるのでしょうか?
全総が目指す目標のひとつは「地域格差の是正」です。そこで、
今回は地域格差の程度を最も良く表す指標のひとつである「地域別人口」に着目しました。
国勢調査等から得られる各地域のデータと、各全総において示されている目標値とを比較し、
その誤差を算出して考察します。誤差の算出には以下の式を用い、
それを「的中誤差率」と称することとします。
的中誤差率=(実績−目標)÷目標×100 (%)
実績:目標年次における実績値
目標:目標年次における目標値
上式によって表されるように、各地域において設定された目標値とその目標年次の実際の値とを比率によって表します。
的中誤差率がプラスの場合目標値以上の結果であり、マイナスの場合は目標値に及ばなかったことが分かります。
またその大きさにより、誤差の程度が把握できます。
ただしプラスであれば良い結果といえないということに注意する必要があります。
つまり、大都市圏に関わる地域については、増加を抑えられたほうが地域格差の是正がなされているといえ、
また地域格差が是正されている結果が出たとしても、誤差が大きい場合は社会状況を把握しきれなかったことになります。
要は、的中誤差率が0%なら素晴らしい!、地方の結果がプラスならマイナスじゃなくて良かった!ということです。
一全総
開発拠点を設定し人口の分散を図った一全総については、地方別人口構成比が記載されています。
その目標値と実績値を表1に示します。値の単位は%、目標年次は昭和45年です。
表1 一全総における地方別人口構成比目標値とその実績値及び的中誤差率
地域 | 目標年次目標値 | 目標年次実績値 | 的中誤差率 |
北海道 | 5.6% | 5.0% | −10.71% |
東北 | 11.3 | 11.0 | −2.65 |
関東 | 28.5 | 30.7 | 7.72 |
東海 | 11.4 | 10.7 | −6.14 |
北陸 | 2.8 | 2.7 | −3.57 |
近畿 | 16.3 | 16.7 | 2.45 |
中国 | 7.4 | 6.5 | −12.16 |
四国 | 4.0 | 3.7 | −7.50 |
九州 | 12.8 | 11.5 | 10.16 |
全総における人口の目標値は、地方分散を推進させるための裏付けを目的としています。
その目標値と実績値の比較を行ってみると、大都市圏である関東,近畿が目標値を上回り、
逆にその他の地方都市圏においては、中国地方の−12.16%を最高に下回っていることが分かります。
このことから、全総による拠点開発方式などの政策では、期待したほど人口集中は押さえきれなかったといえます。
新全総
大規模な開発を行おうとした新全総からは、"比"ではなく実数としてブロック別人口が記載されています。
さらに新全総では当時の推移状況で進んだ場合である「すう勢延長型パターン」と新全総の開発方式である大規模プロジェクト構想を推進させた場合を想定した「新開発方式型パターン」の2通りを推定しています。
その目標値と実績値を表2−1,2−2に示します。人口の単位は万人、的中誤差率の単位は%、目標年次は昭和60年です。
表2−1 新全総におけるブロック別人口(すう勢延長型パターン)目標値とその実績値及び的中誤差率
地域 | 目標年次目標値 | 目標年次実績値 | 的中誤差率 |
北海道圏 | 470 万人 | 568 万人 | 20.85% |
東北圏 | 970 | 1,221 | 25.88 |
首都圏 | 4,050 | 3,762 | −7.11 |
中部圏 | 2,250 | 2,019 | −10.28 |
近畿圏 | 2,600 | 2,265 | −12.88 |
中四国圏 | 980 | 1,198 | 22.24 |
九州圏 | 1,100 | 1,328 | 20.73 |
表2−2 新全総におけるブロック別人口(新開発方式型パターン)目標値とその実績値及び的中誤差率
地域 | 目標年次目標値 | 目標年次実績値 | 的中誤差率 |
北海道圏 | 630 万人 | 568 万人 | −9.84% |
東北圏 | 1,100 | 1,221 | 11.00 |
首都圏 | 3,850 | 3,762 | −2.29 |
中部圏 | 2,050 | 2,019 | −1.53 |
近畿圏 | 2,450 | 2,265 | −7.55 |
中四国圏 | 1,100 | 1,198 | 8.91 |
九州圏 | 1,200 | 1,328 | 10.67 |
北海道圏の実績値については、すう勢延長型,新開発方式型の各目標値の中間の値となっていることから、
新全総の施行期間中においては、ある程度の結果は残せたものの目標には及ばなかったことが読み取れます。
他の地域については、大都市圏と地方圏で明確な違いが見られました。3大都市圏では実績値が両パターンにおいて目標値を下回り、
北海道を除く地方圏では実績値が両目標値を上回っています。つまり、新全総においては、
人口集中を抑えるという地域格差是正について予想以上の成果が得られたことになります。
三全総
高度成長から安定成長に移行したのに伴って策定された三全総では、新全総のようにすう勢延長型を示さずに、
目標値のみを実数で示しています。ただし目標年次は策定からおおよそ10年後ということから、
目標値は昭和60年と昭和65年(平成2年)の2年を扱っています。目標値,実績値,的中誤差率を表3−1,3−2に示します。
単位は人口が千人、的中誤差率が%です。
表3−1 三全総におけるブロック別人口目標値とその実績値及び的中誤差率(昭和60年)
地域 | 目標年次目標値 | 目標年次実績値 | 的中誤差率 |
北海道 | 6,040 千人 | 5,679 千人 | −5.98% |
東北 | 12,808 | 12,208 | −4.68 |
関東 | 39,074 | 37,618 | −3.73 |
東京圏 | 31,240 | 30,273 | −3.10 |
中部 | 21,195 | 19,031 | −10.21 |
北陸 | 3,274 | 3,088 | −5.68 |
近畿 | 23,790 | 22,646 | −4.81 |
大阪圏 | 17,232 | 16,533 | −4.06 |
中国 | 8,133 | 7,748 | −4.73 |
四国 | 4,298 | 4,227 | −1.65 |
九州 | 13,708 | 13,276 | −3.15 |
沖縄 | 1,125 | 1,179 | 4.80 |
表3−1 三全総におけるブロック別人口目標値とその実績値及び的中誤差率(昭和65年)
地域 | 目標年次目標値 | 目標年次実績値 | 的中誤差率 |
北海道 | 6,340 千人 | 5,644 千人 | −12.22% |
東北 | 13,562 | 12,213 | −9.95 |
関東 | 41,034 | 39,397 | −3.99 |
東京圏 | 32,559 | 31,797 | −2.34 |
中部 | 22,031 | 19,485 | −11.56 |
北陸 | 3,421 | 3,108 | −9.15 |
近畿 | 24,756 | 23,030 | −6.97 |
大阪圏 | 17,805 | 16,742 | −5.97 |
中国 | 8,443 | 7,745 | −8.27 |
四国 | 4,395 | 4,195 | −4.55 |
九州 | 14,244 | 13,296 | −6.66 |
沖縄 | 1,158 | 1,222 | 5.53 |
三全総については、沖縄以外の全地域において実績値は目標値を下回りました。三全総における総人口の推定値をみると、
昭和60年、65年ともに実績値は推定値に達していないことから、総人口の推定ミスがまず1つめの要因と考えられます。
さらに、このような結果となったのは若年層に代表される移動人口のためであるといえます。
つまり三全総では目標人口を実数で表していますが、これは各地域ごとに算出した数値であり、
移動の多い若年層の人口数が複数の地域に重複してカウントされている可能性があります。
そのため、各地域とも的中誤差率がマイナスとなったと考えられます。
各地域毎の特徴としては、中部が相対的に目標値を大きく下回っていることが挙げられます。
また、逆に関東は目標値と実績値を構成比で表した場合、昭和60年、65年と進むにつれて実績値と目標値が
近づいてくることから、東京一極集中に向かって進んでいることが伺えます。
四全総
昭和62年に策定された四全総においても、目標人口を実数で示しています。
目標値,実績値,的中誤差率を表4に示します。単位は人口が万人、的中誤差率が%です。
しかし、四全総については目標年次が平成12年であるため、実績値のデータがありません。
そこで実績値は平成8年の将来予測値を用いました。
目標値,実績値,的中誤差率を表4に示します。
単位は人口が万人、的中誤差率が%です。
表4 四全総におけるブロック別人口目標値とその実績値及び的中誤差率
地域 | 目標年次目標値 | 目標年次実績値 | 的中誤差率 |
北海道 | 620 万人 | 570 万人 | −8.06% |
東北 | 1,310 | 1,235 | −5.73 |
関東 | 4,130 | 4,116 | −0.35 |
東京圏 | 3,310 | 3,313 | 0.09 |
中部 | 2,060 | 2,018 | −2.04 |
北陸 | 330 | 314 | −4.82 |
近畿 | 2,180 | 2,081 | −4.55 |
中国 | 830 | 777 | −6.39 |
四国 | 440 | 415 | −5.61 |
九州 | 1,430 | 1,346 | −5.90 |
沖縄 | 140 | 132 | −5.71 |
四全総の策定時期においては、東京一極集中が問題視されていました。そこで東京圏の数値に着目してみると、
東京圏のみが実績値が目標値を上回っており、東京一極集中が目標ほど解決されていないことが伺えます。
今回は、全総における地域別人口の目標値がどの程度的中しているかをもとにして、
簡潔ながら人口集中の経緯を述べました。まぁ、本当に簡単にですが・・・。
で、誤差を調べたということで、各全総について的中誤差率の絶対値を平均してみました。
ただし、東京圏,大阪圏は除外し、新全総については新開発方式型パターン、
三全総については昭和60年の値を採用しました。結果は・・・
一全総 | 7,01% |
新全総 | 6.26% |
三全総 | 4.94% |
四全総 | 4.93% |
となり、新しい全総になるにつれて誤差は少なくなってきていることがわかります。
ただし、新全総については期間が20年と長期間であり、他の全総よりも不利であるとも言えますが・・・。
ちなみに、"作文的"な五全総は人口予測はありません。ただ、人口増加が頭打ちとなるとしか書かれてないのです。
まぁ、ちなみにですが・・・。
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